有川浩の「フリーター、家を買う」を12話でやる夫スレ化した中編完結作品。
実家に甘えてだらけ切って就活も本気で取り組んでこなかった25歳の社会人やる夫が、
母親を救う為のマイホームを買うべく土木工事のアルバイトから必死に取り組んでいく。
立ち上がったやる夫の社会人としての成長過程と家庭再生が描かれるヒューマンドラマです。
新卒で大企業に入社したものの研修が軍隊式で合わず3か月で辞めてしまった25歳のやる夫は、
実家に生活費を出す為にバイトを始めるもそのバイトすら禄に続かず親に負担をかけ続けて、
今の生活は何とかなっているからと一向に危機感を持たないまま1年が過ぎていた。
そんな日々の中で突然家に駆け付けた姉から知らされたのは、
共に住む母親がうつ病を発症し自殺未遂に及んでいたこと。
父の無遠慮な発言のせいで町内で20年間虐められてきたストレスで弱っていた母は、
やる夫が就活から逃げて父子が顔も合わさない家庭を前に逃げ場がどこにも無くなっていた。
それに対して父はそんなものは心が弱い者の言い訳で手出し無用とほざくクソおやじで、
母を今の環境から出してあげるには家を買わなければならないが、
自分しか母を助けられない中で自分ではローンの頭金すら払うことが出来ない。
一念発起したやる夫が100万円を貯めて母の為に家を買う為に
先ずは土木会社の夜間アルバイトに励む内に人間として成長していく様子と、
最早終わってしまったと思われたこの家庭環境が改善する心温まる物語が描かれます。
本作はうつ病に苦しむ母と父の亭主関白で周囲を顧みない自己中心さに対して
これまで環境に甘え続けていたやる夫が突然向き合わざるを得なくなる描写が
とてもリアルに感じられ自分事のように考えられるのが特徴的です。
これまでだらけ切ったやる夫だからこそ役に立てる仕事が見つかって
アルバイト先会社の厳しいながらも頼れる大人に助けられつつ
立ち上がったやる夫は失敗しながらも奮闘していくのですが、
手書きの履歴書を心を込めて書くことや母にハンドクリームを塗ってあげたりと
些細な描写でやる夫の成長ぶりが伝わるその様子に自分もしっかりしなくてはと思わされます。
後は率先してやりたがらない仕事をやったりと細かい仕事の描写が好き。
そして良かったのは序盤で全くもってのクソオヤジの面しか見せなかった父に対して、
単純に更生を促すのではなく父の内心を理解して導いていったこと。
ただの悪役に終わらせず父のこれまでの過去も良く分かる丁寧な作品でした。
そんな家族の大切さが分かって元気を貰える作品なので是非一読してみて下さい。
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