「やらないキッチン」や「輸送戦艦スペース・デブリ」等で有名な荻原数馬氏が
2015年から2021年の5年半もの間連載された長編ファンタジー完結作品。
主人公のエメラルド(翠星夫)は医術を生業とする伯爵家に生まれたが、
戦場で傷病者が糞尿にまみれ傷口を化膿し死なせていることが蔓延っている事実を知ることに。
そんなことが許されている無知と迷信から医学を取り戻すために死体の解剖を始めるが、
既存の宗教権力に真っ向から対立するその考えにより伯爵家から追われてしまう。
拗らせた主人公は迷宮の中に住み着きそこで人体実験を繰り返して研究を行っていくが
当然そんな生活が何時までも上手くいくはずはなく次々と面倒事が転がり込んでいきます。
本作を読んで囚われた固定観念から真理を見つけていこうとする主人公から、
最近完結した『チ。ー地球の運動についてー』を先ず思い出しました。
既存の強大な権力に逆らってでも自分が信じる真理の道を行く主人公がとても魅力的です。
本人は真理を求めなければ夢の巨乳ハーレムができていた可能性を明かされて後悔したりと
垣間見える人間らしさが親しみを持たせてくれる。
そんな読みやすいコメディ描写から始まる本作ですが、
終盤に向かうにつれて主人公を殺害する命令を受けた13人の異母弟のそれぞれの事情や
追放した父親の野望が明らかになるシリアスな展開を見せていきます。
特に「第85話 薔薇の棺」の母親との一幕とその後の「全ての始まり」での描写は
非常にやりきれなさで心に来る良いシーンでした。
そんな笑えるコメディ有り、考えさせられるシリアスな展開有りで良いとこどりの本作も、
さらにクライマックスでは主人公が世間から迫害されながらも磨き上げたその医学で持って
作中度々救い上げていった仲間と団結する構成でとても良い読了感が味わえる一作です。
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