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ソ連と百合。その異色のコラボを見事に掛け合わせた短編小説「月と怪物」

#百合文芸 #百合 月と怪物 - ナムボク(南木義隆)の小説 - pixiv
国家というこの世界を我が物顔で闊歩する巨獣が互いを喰らいちぎり、血を流し身もだえするかのような時代にセールイ・ユーリエヴナは産み落とされた。 一九四四年、第二次世界大戦の末期、ソヴィエト連邦の北東の貧しいコルホーズ(集団農場)の家の二人目の...

国家というこの世界を我が物顔で闊歩する巨獣が互いを喰らいちぎり、血を流し身もだえするかのような時代にセールイ・ユーリエヴナは産み落とされた。

この衝撃的な書き出しで始まり当時界隈に話題が駆け巡ったのはまさかの百合小説。
ソ連による超能力開発と宇宙・百合をキーワードに圧倒的な文章力で2万文字を纏め上げ、
Pixivのオリジナル小説で5000ブクマ越えという快挙を果たし、
早川書房のSF短編集「アステリズムに花束を」に収録された作品です。

音を聞くとその色が見える共感覚を先天的に持った少女セールイと妹ソフィーアが主人公。
1944年のソ連に生まれて親戚の家をたらい回しにされていた2人は、
生まれた街から脱走して首都モスクワでのスラム生活を送っていた。
そして自身が持つ共感覚の話をした老人に売られ超能力開発の研究所に連れ去られてしまい、
その研究所で自分達を監視する女性の若い軍人の元で頭を覆う機械を被りトランプをしたり、
体に微弱な電気を流しながら運動をする等の様々なテストを受けさせられる日々が始まる。

しかし共感覚に超常的な力を見出そうとするこのソ連の研究は全く進まず、
業を煮やした研究者達は暴走を始め連日のように子どもが実験で死んでいく。
そんな中でセールイがある物体を触り灰色と答えたのが転機の始まりで、
今のところ百合要素のかけらもないような本作からどうやって「ソ連百合」という、
読者誰もが認めるキーワードが出てくるようになったのか。

それがソ連ならではの無情さと共に圧巻の終盤で披露されます。

本作はソ連の超能力研究の被験者となり明日どうなるのか分からない緊迫感のある中盤から、
そこから抜け出し百合の秘密が明らかになってその思いに感嘆する終盤の構成となっていて、
百合が全面的に出ている作品ではないですがこれは確かにソ連百合の名が相応しい。
てっきり姉妹間の百合かと思っていたら二度読み不可避のまさかの展開を見せてくれました。
本作の詰め込まれた短編故のスピード感には読了後に名残惜しいと思わせられます。
そしてそんな百合以外にも専門用語を使いながら当時のソ連の生活・時代背景が、
分かりやすく描写されているので当時を描く歴史小説としても読めるのがお勧めです。

書籍版ではセールイが灰色と答えた物体の正体と宇宙で最後に呟いたあるセリフが変更され、
謎の多かった最後に関連性が強く出て裏設定が分かるものになっているので、
本作で気になった方は是非書籍版も一読してみて下さい。
書籍では小川一水のツインスター・サイクロン・ランナウェイも好き。

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