これは世代交代を『する側』ではない。『される側』の視点で紡がれた物語である。
利根亮平、38歳。サッカーのベテラン選手。
母を自死で亡くし、苦労しながらプロになった。
いつまでもサッカーをプレーしたかった彼だったが、老いは誰にも必ずやってくるもの。
衰えを自覚しながらも、彼は『自分自身の引退』に現実味を感じずピンと来ない。
あるとき、チームは彼に後継者を見つけたと一方的に面倒を見ることを強制する。
若さに溢れる少年に、自分の老いを否応でも感じざるを得なくなり……『それでも、人生は続いていく』
1話完結1万文字の短編完結作品。
優秀でフレッシュな主人公がチーム内で頭角を現し大活躍していく作品も多いですが、
本作はそんな優秀な主人公に「追い抜かされる」側が主人公となる新しい視点の作品です。
チーム内で中心選手として君臨していた主人公利根亮平も、年齢はもう38歳。
自分ではまだまだ現役と思っていても衰えを自覚しつつあった時に
監督から「選手兼任コーチとして後継者を育ててほしい」という通告を受ける。
ただその後継者として任せられた新人は自分本位なプレーを繰り返し自分の言うことも聞かず…
更には未成年での飲酒喫煙を目撃し後継者としての自覚がない新人をついに殴ってしまう。
自分の能力は衰えていく一方で、暴力事件により信頼もなくなり、後継者も育たない。
まさにどん底の状態から新人との信頼を勝ち取って一から這い上がっていく
そんな人間誰しも訪れる「世代交代で去る側」の生き様が描かれます。
本作は、世代交代という言葉はチーム視点では全くもって正論で、
ただ一選手としては中々受け入れ難く相反する世代交代というテーマを真正面から捉えて
1話短編でまとめきっているところがとても良い。
当然ながら台頭する選手の裏では、去っていく選手もいて。
オフシーズンで舞台から去っていく選手たちにも思いを馳せたくなる良作でした。
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