「美姫を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。
次期皇妃ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出る!?
…圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャルルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる!
蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。
2008年の発売から現在に至るまで私の一番好きなライトノベルの座に君臨し続けている、
とある飛空士への追憶が作者新シリーズ白き帝国の刊行に伴い本日から期間限定無料公開。
シリーズ作品もアニメ化され当時は一世を風靡していた為既読の方が多いと思いますが、
このタイミングを逃すと紹介する機会がないのでこの機会に全力でお勧めさせて下さい。
同じ書籍を3冊買ったのは本作が最初で最後となり(ライトノベル・新装版・Kindle版)
始めて読んだ際の衝撃が今でも思い出せる人生に残る名作です。
戦争中の敵国とのハーフで被差別階級出身の主人公狩野シャルルは、
地上でどんな差別を受けようとも空では戦闘機を圧倒的な実力で駆るエースパイロット。
開戦から半年が経ちパイロット数は半減し制空権が敵に握られ続けている敗色濃厚な情勢で
突然司令部に呼び出された彼はとある重大な任務を託される。
「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」
「美姫を守って単機敵中翔破、一万二千キロ。やれるかね?」
それは孤立無援の状況下で取り残された皇子の許嫁を海を越え首都にまで送り届けることで、
既に送り出された大航空艦隊は哨戒網に引っかかって敵の雷爆撃機によって全て鉄屑となり、
残る手段は敵に見つからないよう水上偵察機単機のみで秘密裡に彼女を運ぶしかない。
その任務を遂行出来るのは唯一地文航法で海を迷うことなく単身横断出来て
皇家の厳重な調査を潜り抜ける程の性格が潔癖症な主人公のみであった。
そして主人公と送り届ける対象の次期皇妃ファナとの間には幼き日の思い出が存在した。
それはかつて母親と共に働いていた彼女の屋敷で差別に耐えられず苦しんでいた自分を
ファナ自身が励まして救ってくれたという主人公の人生唯一の道標。
このまま戦争でゴミクズのように空に散る運命が待っているのであれば、
これまでの自分を救ってくれた少女を救い出す誇りとなる仕事を成し遂げてから戦死したい。
そう思い任務を受諾した主人公ですが実は暗号は敵に全て解読されていて、
ただでさえ困難な任務は敵に筒抜けで進む先には敵の空母機動艦隊が立ち塞がっていた。
果たして主人公は準備万端に待ち構えている敵軍を単機のみで潜り抜け海を横断し、
後席に座る少女を送り届けることが出来るのか。決死の作戦が幕を開けます。
本作は登場人物が主人公シャルルとそのヒロインの公爵令嬢ファナのほぼ2名のみとなり、
2人きりで挑む過酷極まる任務の過程と明らかになる主人公の過去と相まって
非常に内容が濃い身分違いの恋愛模様が楽しめます。
そして被差別階級の主人公と階級の頂点に君臨するヒロインとの間の許されない恋が
この任務の終了と共に儚い恋に終わってしまうのかと心配する終盤で描かれた、
人生を三回遊んで暮らせる報酬の主人公による衝撃的な使い方が何回読んでも圧巻です。
さらに素晴らしいのは作中何度も窮地に追い込まれる中、
主人公の持つ神がかっている操縦技能が文章で十二分に伝わってくる空戦描写。
圧倒的多数の敵戦闘機に囲まれて為す術もない筈の偵察機が、
主人公の技量によって死中において輝きを放つ本格的で真に迫った空戦がたまりません。
ミサイルとジェット機の時代にはないプロペラ機ならではの空戦が本当に良い。
そんな恋愛と空戦が楽しめるシリーズ全17巻の開幕にして何時までも輝いている本作なので
是非この機会に一読して頂きこの飛空士シリーズに入ってみて下さい。
◇作者様による販売当時の裏話と期間限定公開への経緯
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