みんなのウマソウルは喋らないらしい
現在101話103万文字のウマ娘原作長編現行連載作品。
人格を持ったウマソウルを持つオリ主が圧倒的なウマソウル同調率を武器にレースで無双する。
という一文だけでは全く本作の魅力を表せない固有スキル演出が光る見事なレース描写に加え、
ウマ娘世界の敗者の意地と勝者の自負による人間ドラマすらも描き出されている傑作です。
全力でお勧め作品として野望の少女も挙げていますが、
本作のようなしっかりと芯が立っていて兎に角格好良い最強オリ主ものは大好きです。
特に名家でもないごく普通の一般家庭出身ウマ娘テンプレオリシュは、
ウマ娘をやりこんだ現代人が転生しウマソウルになった人格を併せ持つ二重人格者。
他のウマ娘達は四苦八苦しながら感覚的に鍛えざるをえないウマソウルパワーを
ウマソウル自身と会話することで万全に引き出せるというチート能力をフル活用して、
全距離全脚質に対応した自分の力を示す為に無敗のまま過酷極まるマツクニローテに突入し
アグネスデジタルに御伽噺と称えられる程の最強オリ主としてのスタートを切っていく。
「うひょおおおお。神話と呼ぶにはあまりに荒唐無稽! 伝説と呼ぶにはあまりに発展途上! そう、それは『むかしむかしあるところに』と冒頭に付け忘れたばかりに、現代で対峙することになった御伽噺!」
27話
そしてこのオリ主は単に最強なだけではない勝者としての壮絶な自負も持ち合わせていて、
GIレースの限られた枠をほぼ自分で占領することで容赦なく夢が潰えるその敗者に対しても
負けたことを悔やむのではなく自分と戦えたことを誇りに出来るまでの伝説を残すと豪語し、
自分が踏みつぶした敗者の夢を一つ残らず背負っていく覚悟の持ち主で。
そんなオリ主のクラシック級での最終レース・有馬記念で対峙したのは、
幼少期からの腐れ縁で中央トレセンに入るまでの全ての直接対決で二番手に叩き落され続け、
文字通り己の全てを投げ捨てる覚悟で主人公に挑んだダイワスカーレット。
その余りの力の差に最初は腐れ縁だった関係から正真正銘のライバルにまでなった彼女との
数多くのウマ娘2次の中でも痛烈な印象を残した有馬記念でクラシック級の一年が幕を閉じる。
そしてその過程で謎のウマソウルの持ち主テンプレオリシュは何故生まれたのか。
更にタイトル「「ウマソウルってうるさいよね」「えっ」「えっ」」は誰が言っているのか。
その答えが明らかになる頃には本作の奥深さと見事な演出に熱中すること間違いない傑作です。
本作の見どころは最強オリ主が蹂躙して終わりとは全く次元が異なるレース描写で、
レースに限っては主人公視点でなくライバルとなるウマ娘の視点で描くことによって
死力を尽くし主人公に挑んでいることが分かる敗北して尚魅了されるレースが堪能できます。
そんな他者視点で固有スキルの見事な演出による飽きないレースの数々を楽しんでいると、
唯一主人公視点のレースとなった有馬記念では状況が二転三転するレースで盛り上がりながら、
これまでの数十万字に及ぶ伏線が次々に回収されていく凄まじい作者の技が披露される。
読者が予想する展開から外れるのではなく予想を完全に上回る展開が相次ぐ、
この有馬記念で完結と勘違いしても全くおかしくない本当に素晴らしい構成でした。
そのレース描写以外にも敗け続けるモブウマ娘達にはしんみりさせられる想いを引き出して、
そしてネームドウマ娘達は作者の深いキャラクター愛が伝わってくる日常が良い。
敗者の意地や勝者の自負が丁寧に描かれるウマ娘世界ならではの人間ドラマが展開され、
確かにこの世界で生きているんだなと思える世界が魅力満点です。
そんな世界で以下の大言壮語が実に似合うオリ主による傑作なので是非一読してみて下さい。
「最優秀? 年度代表? そんなの当たり前だろ。だってぼくらは特別なんだから。むしろたった二年の功績で『その程度』だと枠に当てはめ評価が下されるのはちょっと我慢ならないんだよね。
72話
だから特異なぼくらが唯一無二であることを絶対の実績をもって証明しよう。これよりウマ娘の歴史は三つに分かれることになる。すなわちぼくらが世に出る前、出た後、そしてぼくらが駆け抜けるこの世代だ」
◇尊いだけではないアグネスデジタル
「あのっ、あなた様のことを同志とお呼びしてもよろしいでしょうか!?」
「うん、よろしくね」 39話「あのー、ときに――あなた様のことも同志とお呼びしてもよろしいのでしょうか?」
「……へえ」 17話デジタルに初見で『同志』と呼びかけられるはずである。初めて彼女と会ったとき既に私には“推し”がいたのだから。 64話
「あれもしゅきぃ! これもしゅきしゅきぃ!!」
「でも、いまのあたしは――」
「ここから差し切られた貴女の顔が見たい」
領域具現――尊み☆ラストスパー(゚∀゚)ート!「きゃは! 待っていたよデジタル、待ちわびた!!」100話
◇モブウマ娘として読者に痛烈な印象を残したバトルオブエラ先輩
「メイクデビューで一緒に走ったでしょ? 二枠二番バトルオブエラさん。適性はスプリンター寄り、脚質は先行。二着だったよね」
「私はとても強いから、私と走ったウマ娘の中には走るのをやめてしまう子が一定数存在しているんだ」
「でも中央に来るような子は、ただ走るために生きてきたような子ばかりでしょ?」
「だから、私が『殺した』かもしれない相手のことくらい、憶えておこうかなって。どうせ現役全部含めても千は超えないだろうし」
「この道がどこまで続いているのかは知らないけどさ」
「私たちに託したこと、後悔しない景色を見せてあげる」
私を『殺した』のが貴女で、ほんとうによかった。「今日のところは私たちの方が石ころ一つ分、強かったみたい」
46話 49話
◇実は隠れ聞いてたダイワスカーレットからの有馬記念・中山レース場、地下バ道
「待たせている相手がいるんですよ」
いや、待っているのは私の方だろうか。
『彼女』が私に勝っているのは熱意と根性の二点。
今は私の方が速い。でも『彼女』には才能があって、環境のバックアップもあって、それを活かせるだけの運もある。いつか絶対に追いついてくる。
そのいつかは、きっとそう遠くない未来の話で。
「無敗のクラシック三冠ウマ娘とトリプルティアラのウマ娘が年末の大舞台で雌雄を決する。面白そうだと思いませんか?」「うん……おかえり」
ブライアン先輩と雑談していた分、帰りはそれなりに遅くなってしまったけど。
スカーレットは何も言わなかった。彼女の性格なら文句のひとつでも飛んできそうなものなのに妙に反応が鈍い。
いやまあ、私を探しに来た彼女がこっそり物陰で聞いていたのは知ってるんだけどね。 26話——————————————————————————————
中山レース場、地下バ道にて。
待ち合わせしたわけでもないのに、まるで当然のようにスカーレットと私は肩を並べた。
「ごめんなさい。待たせたかしら?」
「なに、私もいま来たところだよ」
中央に来てからトゥインクル・シリーズでこうして隣に並ぶまで二年かかったけど。
私はこの日を待っていたのかな? それとも待たせたのは私の方か? 62話
◇宿命のライバル・ダイワスカーレット
引き込んだのはアタシで、突き飛ばしたのもアタシ。
「ウマソウルってうるさいよね?」
「えっ」
「えっ」
次に会ったあの子は、もう今のアイツになっていた。テンプレオリシュを名乗り始めたのもこのすぐ後のこと。 58話しかし一度至ってしまったのならもう、気づけなかった頃には戻れない。
「……ない……知らない、アタシは、あんな」
眦が裂けんばかりに目を見開き、震える後輩にナリタブライアンはかける言葉を持たない。それは後輩自身が後生大事に抱えてきたもので、ずっと背負ってきたものだ。 33話「……アタシ、アンタを探している。あの日から、ずっと」
「勝てば見つかるかしら?」
「さあね、でも――」
だったら私もそれに沿おう。 咲き誇る夜空の大輪だけをまっすぐ見つめて、夏の風物詩が生み出す雑音に重ねるように言葉を吐く。
「譲ってあげるつもりはないね。欲しいのなら勝ち取りなよ」 45話「……似てる」「あれはどちらなのかしら」 49話
「アタシは知りたいんです。あのとき傷つけたのがどちらのリシュだったのか」
「……『I love you』とはよく言ったものだぜ」
「バカねウオッカ。負けていいなら戦うまでもなく譲ってしまえばいいのよ。負けられないから戦うんでしょう」 59話「それはもう知っているわ」
凛とした異音が世界に混ざった。
「『不可能なことがらを消去していくと、よしんばいかにあり得そうになくても、残ったものこそが真実である、とそう仮定するところから推理は出発します。』。ホームズだって言ってるでしょう?
あの種目別競技大会のときジュニア級だったアンタが、ブライアン先輩相手に最後の直線のたたき合いで競り勝つなんて無理。アンタのことはずっと追ってきたから、どのくらい強いのかは誰より知っている。身体能力が二倍にでも跳ね上がらない限りはね。だったらアンタはそれができるのよ」
「それでもアタシが一番なんだから!」「……やっと、わかった」
息も絶え絶えに吐き出される言葉。
たとえ紅色の髪に表情が隠されていても、ぽたぽたと頬に落ちるその滴が汗だけではないことをぼくは知っていた。「アタシがあのとき傷つけたのはリシュだったんだ。あなたじゃない……」
「うん。ごめんねダイワスカーレット」 64話
◇テンちゃんがたった一つついた嘘
嘘を吐くコツは、愚直なまでの正直者であることだ。
ふぅん?
その当初の目標っていうのは教えてくれないの?
《うん。まだ秘密ってことで。いずれわかることだろうし、今わかったところで何かメリットがあるわけでもないし。何よりちょっぴり恥ずかしいから》
最後のが本音だな。間違いない。
まあテンちゃんは気まぐれで嘘つきだが、こういう肝心なところで私に嘘をついたことは一度も無い。
なら、本当にいつかわかることで、いま知る必要のないことなのだろう。じゃあそれでいいや。 61話この子の名前はテンプレオリシュ。
私が決めた。そう決めた。 64話この子がテンプレオリシュと言う名のウマ娘なのだと、世界に押し切ってやる。
そう思ってくれるくらい私がこの子に対して誠実であったということ。だからこそ、この子を騙しきるために吐く嘘はこれが最初で最後だ。きっと私が本当の意味でウマ娘になったのは、スプリンターズSのときだ。
銀の魔王という鋳型に集めた“願い”を情動で焼き固めて、世界に刻みつけた。
テンプレオリシュというウマ娘が存在していることをようやく世界に認めさせたんだ。
道理であれ以来、情緒が揺れ動くようになったと感じるはずだ。
逆だった。あのときまで私の魂は未完成だったのだ。65話《名前で括れてさえしまえば形になる。『テンプレオリシュ』――その名を鋳型として、この世界の人々の“願い”が集まるように世論を誘導してきた。それがこの子の対人関係に害を及ぼすことになると知った上で、“銀の魔王”というキャラクターを強調し続けた。 さあ、証明といこうか。数は既に十分すぎるほど。光も闇も、魔王の供物だ。そして目の前にはこのままでは勝てない強敵。覚醒イベントを起こすにはピッタリだろう?》
すべてはこのときのために
その宣言と同時に、何かが音を立てて噛み合ったのを私は確かに聞きました。
「十束剣」に覚醒した!
《はじめまして世界。今後ともよろしくぅ!》 48話天使のテンちゃん。
安直も一周回ればなかなか気づけないものである。65話
◇ウマソウルってうるさいよね
「…あ、あれ? 何も見えませんね。あっ、もしかして偽名だったり――ヒエッ」
「フクキタル先輩ってジョークのセンスが独特ですね。URAに偽名で登録するわけないじゃないですか」44話
「喰わせた」「四分の一も食べ残されるなんて予想もしてなかったし、ましてやその状態で安定するなんて完全に想定外だったもの」53話女神の甘言になんて乗るものじゃあないな。
まだ生きてるじゃないか、この子。 62話「あなたを授かったとわかったとき、お父さんもお母さんもとても嬉しかったわ。でもね、お医者様に言われたの。『この子は産まれてくることができないかもしれない』って」
名前の無いウマ娘。
この世に生を受けたとき、私はその一人だった。 64話だから偶然と幸運が尽きたとき、そこが寿命なのだと潔く終わりを受け入れるつもりでいたのだ。
「ウマソウルってうるさいよね」
「えっ」
「えっ」
あの瞬間までは。私自身がウマソウルになればいいのだ。
足りない分は外部から補えばいい。ウマ娘はこの世界に星の数ほどいるのだから。
噂に聞く【領域】。要するに世界を一時的に上書きするほど屈強な魂の発露だろう。あれをちょっぴり齧り取ればこの上ない素材となるはず。
となれば、やっぱりテンプレ転生者らしくレース業界にこの子の未来を誘導することになるか。今ならわかる。テンちゃんはそうやって前人未到の大記録を打ち立てることで『テンプレオリシュ』に捧げられる“願い”を確固たるものにしようとしていたんだ。
テンちゃんは仮に自分が“願い”を流し込まれた結果として物言わぬただのウマソウルと化しても構わないと思っていた。「今年の年度代表ウマ娘は私で決まり。だから、その場で私は私たちであることを公にする。新しい勝負服もそれに合わせたデザインにしてもらうつもり」
ただの『テンプレオリシュ』ではなく、『ふたりでひとつのウマ娘』に改めて“願い”を集める。 未来のいかなるレースにおいても、とある二重人格のウマ娘が残した偉業が比較に出されるほどの偉業を打ち立てるのだ。 65話
コメント
繰り返し読むことになる作品。文章量多いのに。
ウマ娘というコンテンツについての知識と考察からお出しされる独自解釈が楽しい。
コメありです!
最新章ではゴルシにスポットが当たりつつありますが、
今回読み返したら2年前の29話でテンちゃんがゴルシ救っていたりと伏線の数々に繰り返し読んでも成る程と唸ってました。
独自解釈の数々にもキャラ愛と原作愛が伝わってくるのが良い。。
一時期匿名解除されてて、作者を知った時には驚いたな
でも考えると結構文章とか作風が似てたし、割と納得
主人公視点だけじゃなくて他キャラ視点の話もあって、心情描写が綿密なのが良い
コメありです!
完全に匿名だった時既に作者を把握されている読者さんがいらっしゃって
分かる人には分かるんだなとかなりビビってました。
焦点が当てられるウマ娘みんなが魅力的に映る心情描写が私にもクリーンヒットし続けています。