※2021年に個人サイトからなろうに転載
淡雪秀雄は、ごくありふれた大阪の中小企業の社長のおっちゃん。ある日目が覚めると、なんとアドルフ・ヒトラーと入れ替わっていた。「自殺は嫌やあ」おっちゃんの孤独な戦いが始まる。官僚主義、幹部間の確執、同盟国の利害と文化、総統権限をもってしても乗り越えようのないカルチャーギャップが次から次へ襲ってくる。おっちゃんは無事に大戦を終わらせることが出来るか。
全30話30万文字のオリジナル架空戦記長編完結作品。
1940年フランス侵攻後のヒトラーにドイツ軍オタな中小企業社長のおっちゃんが憑依。
閉塞しきった国内問題を始め迫りくる独ソ戦等解決困難な課題は山積みな中、
現代人らしい発想を持ってこの世界大戦に挑んだ本格仮想戦記の名作です。
5年後に自殺してその生涯を終える1940年9月30日のヒトラーに気が付けば憑依していたのは
零細メーカーの社長にしてドイツ軍オタな主人公。
このままでは自分にも史実と同じ死が待っているために、
先ずは総統会議でこれまで準備していた対ソ侵攻計画を中止し大方針の転換を宣言する。
浮いた人的資源を生産現場に回してイギリス本土上陸の為の準備を進めていきますが、
来たる本土上陸作戦を前に背後のソ連も不穏な様子を見せていて。
史実と同様に東西からの2正面作戦となりドイツは敗北してしまうのか。
読者がそう思ったその瞬間におっちゃんの考えに考え抜いた秘策が遂に披露されていきます。
本作は諸々の下準備を終えた中盤以降の展開が非常に盛り上がって、
特に戦局が一転する重要な局面で語られた心に残る演説描写が本作の大きな魅力。
他にもマンシュタインへの密書の中身を始めロンメルを有効的に活用した戦争描写等、
大戦が本格化した17話から数々の見どころが詰まっています。
そして本作は本格的な戦争描写だけではなく、
主人公が序盤から一貫して奮闘していったユダヤ人問題解決の困難さが良く分かる作品で、
何といってもラスト直前に登場したあの新聞記者には涙腺がゆるみます。
5年以上ぶりに読みましたがこの場面は未だ克明に覚えていました。
作者の深い知識による内容がかなり濃い作品で各話の後書き解説は勉強になり、
仮想戦記お馴染みのご都合主義展開もなく地道に一つ一つ足掻いていった結果、
しんみりさせてくれる心に残る名作となっているので是非一読してみて下さい。
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