とある小国にアルエという美しい王女がいました。けれど、この国には隠されたもう一人の美姫、第二王女のセレネという少女も居たのです。セレネは、その異質さにより忌み子として扱われ、国ぐるみで秘匿され、暗い部屋でひっそりと命を繋いでいました。でも、セレネには誰も知らないもっと大きな秘密がありました。セレネの中身は、おっさんだったのです……
全109話61万字の書籍化済み長編ファンタジー完結作品。
限りなく俗物なお姫様主人公が地の文での容赦のないツッコミを浴びながらも、
周りからの勘違いによって人類史に残る功績を成して月光姫とまで称えられる。
その主人公の勘違いによる空回りっぷりを楽しむほのぼの勘違いコメディ作品です。
現代日本から転生してきた為に流暢に言葉を話せず不気味な存在として虐げられて、
王城の一角の牢獄のような部屋で監禁生活を過ごしていた主人公王女セレネ。
彼女の環境を不憫に思った大国の王子に救い出されて豪華絢爛な外国の王宮に移住するも、
この主人公は生粋の引き籠りで愛する姉が自分に同情してくれる牢獄環境を満喫していたので
気分はドナドナでこの王子にいつか復讐してやると完全に逆恨みな決意を固めていた。
先ずは王子の近くで弱点を探そうとするもこの王子は文武両道で性格も良い完璧超人な為に、
全く弱みを見つけられずに自分が王子に恋していると逆に勘違いされるに留まらず、
何故か王家の家庭環境は一段と良くなり更には兵士達の士気は見違えるほどに上がっていて。
それでもめげずにこの国を内部から食い荒らして崩壊させてやるという目論見を果たすため
隣国に行ったり竜に襲われたりと色々なトラブルの中でも奮闘していきますが、
勘違いは拡大する一方で気づけば人類史に残る功績を成し遂げ月光姫とまで呼ばれるように。
そうして最早どうしようもなくなった主人公は王子を恨む気持ちが爆発して、
最後はとんでもないことを仕出かしてこうくるかと思わせてくれる結末が描写されます。
本作はただの俗物お姫様による勘違いコメディ小説とはならず、
主人公を徹底的にこき下ろす地の文の描写が非常に魅力的で
地の文が楽しみで読み進めていくという稀有な体験が出来る小説です。
「……ぼうりょくだ」
セレネは、彼女の持てる知性を総動員した結果、暴力で解決を試みる事にした。セレネは、コンピューターウイルスに感染しないために電源を入れないという解決策を思いつく人間だったので、仕方がなかった。
セレネの中身はマリーの数倍の人生経験があるはずなのだが、セレネは子供相手に全力を出せる逸材であった。端的にいうと、大人げが無かった。
「うおぉーっ!」
セレネは足に渾身の力を篭め、セレネの繰り出せる唯一にして最強の必殺技『セレネタックル』――要するに単なる体当たりで強行突破を試みる。セレネは全力だった。10歳の少女相手に、それはもう全力だった。
この地の文で描写される主人公が受け入れられるかどうかが鍵になっている作品ですが、
おバカな主人公とその主人公を勘違いして持ち上げていく周囲とは対照的に、
様々な方向から馬鹿にしていく地の文の三者でとても良いバランスが構成されています。
そんな地の文によるシュールコメディの他にも主人公のほのぼの勘違いコメディとしても読める
色々な楽しみ方が出来る作品なので是非一読してみて下さい。
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