年老いて足腰も弱り、ベッドで過ごしていたと思ったら畜生道に堕ちていた。
前世ウマ娘で、今世は牝馬に生まれ変わったアパオシャは、オグリキャップ産駒『ウミノマチ07』として肉にされないため競走馬としてレースを走る。
全71話38万文字のウマ娘長編完結作品。
ウマ娘として大往生を遂げた後に現代日本の競走馬に転生した主人公が、
前世での酸いも甘いも知り尽くした競走経験を生かし戦い切って日本の希望へと成り上がる。
読者に夢を見させてくれた大作となりウマ娘世界を生きた前作未読でも十分に楽しめます。
2007年に家族で経営するとある小さな牧場に誕生した
オグリキャップの最後の産駒にはウマ娘としての前世があった。
最早枯れ果てた血統で周囲の人間からは全く期待されていなかったこの主人公アパオシャは
前世がウマ娘であった為に競馬を知らず食肉になるのではと警戒していた所、
流れたレースの実況放送によってレースを走らせるために人が馬を育てていることを知る。
そしてこのまま肉にされないために何としてでもレースで結果を残そうと
厳しい訓練の毎日を過ごしジュニア級は3戦3勝と順調に終えてクラシック級に突入しますが、
バケモノ級のスタミナを持っていることを調教師に見込まれたことから
牝馬にあるにも関わらずクラシック三冠に挑戦しそのまま皐月賞を快勝。
そして次はタイトルの畜生ダービーの由来となった本作らしい印象的な日本ダービーが開幕し、
菊花賞では生粋のステイヤーたる主人公が満を持してその本領を発揮する。
ここからオグリキャップやシンザンの夢を乗せた彼女に魅せられる展開が続いていきます。
それに3000メートルは長い。あいつらはまだ誰も、この長丁場を経験していない。どう走るか知らないんだ。
さあ、泣いて喜べ小僧共。前世で世界中の長距離G1を十三勝して、数十年間にわたって世界最強の座を譲らなかったステイヤーが、長距離戦とは如何なるものか、みっちりと教育してやるよ。
本作は前世ウマ娘としての特徴が良く出ている作品で、
ウマ娘時代に慣れ親しんだレース場を始めとした莫大な経験という他の誰にもない強みからの
1戦1戦飽きさせない追い込みから大逃げまで変幻自在なレース展開が魅力的です。
スピード自体は特筆するものはないものの並外れたスタミナで捻りつぶしていくという
この主人公を見ていると長距離戦のいろはを学んでいる気持ちにまでさせてくれます。
そしてその主人公以外にもオグリキャップに魅せられた馬主に騎手や生産牧場の家族等、
主人公の周りの人々の描写が詳しくされているので彼女の活躍に一緒になって盛り上がれる。
誰にも期待されていなかった序盤から活躍して変わっていく風景を描き出していって、
中盤以降は東日本大震災を始め苦境にあえぐ日本の中で希望となったその過程は
思わず過去に思いを馳せてしまうほどの熱量を持っているので是非一読してみて下さい。
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