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ハーメルン

前世で燃え尽き孤独に生きるTS少女の苦悩と彼女を救った究極の音楽ライブ「月輪より滴り」

ヴァイスシュヴァルツより主人公氷川紗夜

氷川紗夜っぽい誰かがわちゃわちゃするやつ。

バンドリ原作全100話63万文字長編完結作品。
メジャーデビューの夢叶わぬままに亡くなってTS転生していたという秘密を、
両親を始め周囲全てに対して懸命に隠しながら一人孤独に生活する主人公。
そんな彼女が転生したが故に生じた複雑な家族関係と馴染めない社会を繊細に描きながら、
限りなく魅力に溢れているライブシーンを通じて読者にも音楽への感動が伝わる傑作です。

原作未読でも全く問題なく世界に入り込めて逆に本作から原作に触れるまでの熱量がある。

TS転生主人公氷川紗夜はただただ平穏に生きていたかった。
それは前世がある為に育ててくれた両親を親とは思えてないことによる罪悪感と、
双子の妹を子供としての振る舞いの基準点に利用したことで生じた偽りの姉妹愛。
この秘密を家を出て独立し家族と関わらなくなるまでは絶対に隠し続けなければならなくて、
前世でメジャーデビューの夢に破滅したからこそ今世では夢を見ず全てに消極的に生きていく。

それがこの世界でどうしようもない異物感に苦しむ彼女が導き出した唯一の人生設計だった。

そして自身が加入し実力派バンドとして名を馳せているRoseliaでの充実した活動も、
家を出て独立する為に加入当初からの約束通り脱退することをメンバーに告げていて。
その主人公と離れたくないメンバー達は懸命に想いを伝えるも全く届かない一方通行な中で、
バンドを捨てざるを得ない主人公の苦悩が深まった末に衝撃的な展開へと繋がっていきます。

本作はTS転生した為に世界に全く馴染めない主人公の苦悩を秀逸な心理描写で描くと共に、
音楽に人生を捧げているのが伝わってくる緊迫したライブシーンが非常に魅力的です。

これ以上ない程の大舞台で信頼出来る仲間達と見事な演奏をやり遂げて満ち足りていても、
自分にとても良くしてくれる家族に対して秘密を隠し続けることが耐えられない為に
家を離れることで仲間達に真意を明かさないままにその幸福を捨てなくてはならない。
主人公の周りの人物達が人間味溢れるからこそままならない現実のギャップが心に染みる。

そしてライブシーンについても作中のターニングポイントとして数多く描写されますが、
予想外のアクシデントに対するアドリブ演奏や自己表現の個性的なパフォーマンスに加え
何よりも伝わってくるのがライブシーン随所で描かれるメンバー間の信頼関係。
バンド描写を楽しみにして本作を読んだとしても本作以上のライブシーンを私は知りません。

また日常描写においても深く主人公にのめり込める心理描写に加え比喩表現が駆使されていて、
氷川紗夜の本作でのモチーフな月だけでも「真昼の月」「紙月」「天満月」といった
詩的な言葉の数々によって彼女の変化についての情景が如実に想起されてくる。
特に前世で燃え尽きた主人公を一言で表す「灰」を生かした最終章のライブは見事の一言です。

そんな皆さんに読んでほしい当サイト全力でお勧め作品なので是非一読してみて下さい。

 君のクオリアを総て否定した私を、努力を無為にした私を、献身を無下にした私を、気持ちが悪いと言い切ってくれ。
 罪の告白を先延ばしにして来たツケだ。言葉にしてみれば、この欺瞞は感じていたよりもずっと凶悪でタチが悪い。

「……ダメだよ、

腕を掴まれる。指先が震えていた。

「自分の苦しみを無視しないで。いちばん辛かったのはおねーちゃんでしょ?」

11話

「多分、最低限のことはやったんだ。ライブが成立するだけの努力をして、それで、おしまい。ステージに立つことしか私は考えてなかった。努力もして、みんなと絆を深めて、ステージに立てば今度こそ魔法がかかって私は、アイドルになれるんだと思ってた」


が魅せなきゃいけないのにね。『頑張ったね』なんて言われちゃいけない。『頑張ろう』って言わなきゃ。『頑張るよ』って言わせなきゃ。私は、それが『アイドル』だって思ったんだから」

29話

 あたしがおねーちゃんにとっての幸せを勝手に定義したように、あたしもおねーちゃんの定義したあたしの幸せに沿って生きてみる。

 共感性の欠如によっておねーちゃんへの予想を違えていたのなら、認識を修正しなければいけないし、謝らなければいけない。

62話

「チサトさん! ヒナさんの秘伝書です!」
「秘伝書って……ノートよね。見ても良いものなのかしら」
「私が日菜ちゃんに借りたんだ。日菜ちゃんがパスパレについて考えてきたことを知りたいって言ったら、『もう使わないから』って」 

 4冊程度のキャンパスノートだった。思考を取り留めるメモらしき走り書きと、アイディアや予定をまとめた清書が入り交じった『秘伝書』。日菜のアイディアノートだ。千聖もその存在は知っていた。特に隠すわけでもなく持ち歩いていたし、付箋やメモを挟み込んでいる姿も何度か目撃したことがあったからだ。 

「私、やっぱり日菜ちゃんのことなんにも知らなかったし、考えてなかった。私がレッスンとお仕事で精一杯になってる間に、日菜ちゃんや千聖ちゃんはこんなに動いてくれてたのに。それも、きちんと実感してなかった」

67話

「嫌な人間です。言い訳ばかりが得意で、逃げてばかりで、誰かに肯定されることにさえ怯えるような。宇田川さん、貴方がいつか言ったような、活力と自立心に溢れた人間ではありません。今井さん、貴方が望むような、誰かの心の支柱になれるような人間ではありません。白金さん、貴方が肯定してくれたような、強く優しい人間ではありません。湊さん、貴方の理想に、私が適うとは思えません」

「それは──」

「──ええ、でも。こんな私を求めてくれるのなら、それに応える勇気くらいは備えていたいと思う」

74話

「親友とは、なんでしょうか。一番仲の良い友人のことでしょうか。言うまでもなく、友人の中にも仲の良さの序列のようなものがありますよね。その頂点が、自動的に親友と呼べるものなのでしょうか。それとも、友人よりも更に上の仲の良さというものがあって、言わば、恋愛対象でない友達以上恋人未満を指す言葉が親友なのでしょうか。親友は一人きりでなければならないのでしょうか。それとも数人いても普通だったり。一方的な認識でも良いのでしょうか。恋愛関係のように、相互の同意の下で親友とは成り立つのでしょうか」 

 私には分かりませんが。空中にいくつも投げ掛けた問いを、紗夜はそう切って捨てた。 

「親友ができた、と。大学1年の夏に聞きました。それが全てでしょう」

84話

 ──ああ、そうだ。── 

 ──今こそが、私が永遠を願う瞬間なのだ。 

 紫のライトに視界が眩む。右足を下げて、客席に対して半身になった姿勢のまま、Roseliaの全員を視界に収める。 

 震えよわが翼、砕けよわが魂。105パーセントが生まれ得るのは、きっと今日に違いない!

94話

◇蛇足
作品の凄まじさ故に同じ人間じゃないというか同じ世界には住んでないとまで感じた作者の方は
今やアニメ化作家になられたやる夫スレ時代の富士伸太さんを始め数人いらっしゃるのですが、
去年本作者の配信を恐る恐る覗いてみたらしっかり人間なことが実感出来て安心した。


◇補足
1週間後の3/21から本サイトでも企画紹介記事を投稿している春のバンドリ祭が開催されます。
最近のMyGOやAveMujicaアニメからバンドリに入ったり本作でもっとバンドリを読みたい方、
毎回沢山のバンドリの新作が投稿されるので開催される企画で作品に触れてみて下さい。

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コメント

  1. 夜市よい より:

    昨日別記事でコメント頂きましたがこちらでコメント返信させて頂きます。
    コメントにも記載頂いている月の海と(春眠暁を覚えず秋雨薫る井戸の底)は
    本作のさよひなとはまた新しい側面が味わえていつまでも沼に入れて健康に良い。。
    後はおいかぜさんの作品だと記載の輝かしきさいよ永遠なれで心洗われてから色褪せた空の下でのシリアスっぷりが好きです!

    ——————————————————————-
    月生 より:
    2025年3月13日 20:53
    またこのひと月輪読み返してる….
    確かに堂々たる大傑作だけどもあれを読むとほぼほぼ月の海が読みたくなるのが難点なんですよねえ
    春バ祭前に俺ももう一回行くか
    輝かしきさいよ永遠なれとかこの関係をなんと呼ぶももう一回行きたいし
    ——————————————————————-

  2. 匿名 より:

    全力でおすすめなので読みたいんですけど、バンドリ知らなくても楽しめますか?

    • 夜市よい より:

      コメありです。そしてバンドリ知らなくても楽しめます!!
      私自身バンドリ最初期に引退し長年経過したほぼミリしらの状態からはまっていて、そして私以外からも感想欄で面白いという原作未読者の声も多数ございます!

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